📚理不尽な進化 メモ

2024/05/20

序章 進化論の時代

p15.私たちにとって進化論は、万物が生々流転する世界において、その栄枯盛衰のメカニズムを包括的に説明してくれる物の見方の筆頭候補、というかほとんど唯一の候補者である。

作用はあらゆるものを侵食し尽くした後、進化論的世界像を残していく、らしい。

これまで地球上に生息してきた生物種の99.9%が死滅している。なら、誕生した種はやがてすべて絶滅する。滅んだものを消えるにまかせるわけにはいかないのでは。

「みんなどこへ行った？」

不在を問題視。

p26.生き物たちは遺伝子がわるかったせいで絶滅したのか？それともただ運がわるかっただけなのか？

第一章 絶滅のシナリオ

生物種の99.9%が絶滅し、かつその理由はラウプの考えでは、運がわるいせい。

絶滅への3つのルート

弾幕の戦場

公正なゲーム

理不尽な絶滅

最も影響力がある。

第一のシナリオ 弾幕の戦場

無差別に犠牲者が出る打撃。巨大隕石の追突など。ランダムサンプリング。

選択的ではない。

第二のシナリオ 公正なゲーム

他の種との生存闘争の結果として絶滅が起こる。一定のルールがすべての参加者に対して効力をもち、そのルールのもとで競争が行われるの。

選択的である。

ラウプの言う運は、ランダムサンプリングとは似て非なるもの。弾幕の戦場だけが理由ではないし、公正なゲームだけでもない。でも、運だと主張してる。

第三のシナリオ 理不尽な絶滅

p52.「ある種の生物が生き残りやすいという意味ではランダムではなく選択的だが、通常の生息環境によりよく適応しているから生き残りやすいというわけではないような絶滅」

例えば恐竜の絶滅。

隕石の追突後、太陽が遮られ、10℃の寒冷化が起こった。新しいルールに急速に変化し、しかもそれは、それまでのルールとはなんら関係がない。何億年も培ってきた適応が、新しいルールでは役に立たない。それによって絶滅した。

弾幕の戦場は、存亡そのものが遺伝子と関係なく非選択的に決まる。公正なゲームは、遺伝子によりその存亡が、生存ルールのもとで選択的に決まる。理不尽な絶滅は、生存ルールが運次第で決まるにも関わらず、そのルールは生物の遺伝子に応じて選択的に犠牲者を決定する。

p60.万人に公平なはずの運が不公平にもたらされるのであり、公正なはずのゲームが不公正にもたらされる。

根強い、自業自得説

恐竜の絶滅は理不尽な絶滅。が、適応できなかった事が理由と考えられがち。

主観的な感覚でしかない。だからこそ根強いと言える。

地球に対して抱いている好印象が原因かも。

認知バイアスも。世界は公正と見がちなバイアス。それが侵されようとすると、被害者の人格攻撃になったり。

理不尽な生存もある。

珪藻類は、栄養分がなくなる季節に休眠する。ちょうど休眠の時に隕石の追突があり、恐竜とは逆に理不尽に生き残った。

大昔の哺乳類も。小さい体が食糧難と寒冷化を耐え忍ぶのに功を奏した。

彼らの体が小さかったのは、恐竜が既に君臨してたから。

p72.プレーヤーの実績とは無関係に新しいルールが導入される結果、成功をもたらしている長所がそのまま致命的な欠陥に転じたり、欠陥であるものが思いがけず長所に転じたりもする。理不尽な絶滅とは、そのようにして起きる絶滅のシナリオである。

もっとも影響力のあるシナリオは、理不尽な絶滅。

案外、（人間の介在をなしにすると）生物は絶滅しない。化石記録中での種の平均寿命は、およそ400万年。

短い期間のうちに地球上の全生物種の数割を一気に取り除いてしまうような出来事が何度もあった。理不尽な絶滅にほかならない。計5度の大量絶滅があった。

大量絶滅事変は、生き残ったものたちに進化的革新のための作業場を提供する。絶滅したものは進化のサヴァイヴァルゲームに参加はできないが、絶滅したものの不在が、生き残ったもののサヴァイヴァルに拍車をかけるから。

地球外生命体が住む環境は、穏やかな星ではなく、種の絶滅を引き起こす環境の撹乱がたっぷりあるところ、と考えられている。

第二章 適者生存とはなにか

自然淘汰説を理解するために必要なのは、生き延びて子孫を残すのは強者でも優者でもなく、まさしく適者である、という理解。

適者であるための条件が、生き延びて子孫を残すこと。

進化論は、学問でもあり世界像でもある。世界像という次元において、進化論を誤った仕方でした理解し利用することができないよう。

自然淘汰説は、学問から日常の世界像として受け入れるとき、別物になる。

理解の齟齬とそれに対する模範解答が存在しているにもかかわらず、誤解がおさまることがない。それはなぜか、を考えるのが本章の中心的話題。

進化論のアイデアは、お守りとして使用される。

言葉には主張的な言葉（実験や論理によって真偽を検証できる）と、表現的な言葉（呼びかけられる相手になんらかの影響を及ぼす）がある。

表現的だけど主張的に見える言葉、「ニセ主張的命題」があり、意味内容がハッキリしないまま使われる。

「米英は鬼畜だ」

ニセ主張的命題により、言葉のお守り的用法が可能に。

権力者により正統と認められている価値体系を代表する言葉を、自分の社会的に・政治的立場を守るために、自分の上にかぶせる。

進化論的世界像はみんなに正統と認められており、自然淘汰説はそれを代表する言葉で、それを用いれば自分の社会的・政治的立場を守ることができそう。

進化論の言葉は、まさにお守り的用法に使いやすい。

言葉のお守り的用法は現代人が用いる一種の呪術。

認められているからこそ、印籠として用いることができる。

進化論は学問の世界から離れれば、お守り的になるしかない？

「適者生存」はスペンサーが考え、ダーウィンやウォレスのお墨付きをもらった。

進化論を正確に、わかりやすく表す言葉。が、優れたキャッチフレーズには誤解がつきもの。

学会では死語に。

過去、列強諸国において、人種主義、植民地主義、優生主義といった力づくの優勝劣敗思想を正当化するイデオロギーに使われた。

実は、学問上の問題がある。

適者生存は、トートロジー。

誰が生き残る？→適応した者。誰が適応した者？→生き残った者。。。

進化論のお守り化は、トートロジー問題に根っこがある。

適者生存は、トートロジーだからこそ有用。経験的主張を支えている。

論理学的な意味ではトートロジーではない。が、適者は、事後的に定義されざるを得ない。生存したから適者である、と。

この意味において、トートロジー的なものと言える。

あくまでも適者生存がトートロジーであって、進化論全体がトートロジーであるわけではない。

トートロジー問題は、進化論のお守り化とどのように関係？

理由その一ー文法に導かれる

p130.進化論に含まれるトートロジー的なものが、一方で学問の世界に経験的研究の条件を、他方で日常の進化論に言葉のお守りをもたらす

トートロジーは常に正しいが何事も説明しない。けどそれは、学問の世界では問題ない。真偽の検証が可能な形で構築された個々の仮説が、議論の対象。学問的に限定されている。

日常使う時は、その限定が解除される。「適者が生存する」という言葉は生存したものが適者であるので、何も言っていることにならないが、一方で正しい。トートロジーやから。で、かつ自然法則のような見かけをしている。がために、なにかうまいことを言った感じになってお守りに適した形をしている。

理由そのニー自然淘汰は足跡を消す

p139.かつて祖先集団に存在したであろう競争相手が見出されないという事実それ自体が、形質Aが自然淘汰による適応の産物であるという根拠になるのだが、まさにその同じ事実によって、適応の過程で淘汰されていったであろうほかの形質を特定できないという事態が生じる

生き残った奴が残った、しかわからない。時代や場所が変われば適者の適者性も変わりうるのに。

必然的に生き残ったように見えてしまう。

適者がはじめから決まっている、と思わせる。

トートロジーはいつも正しいので、どんな事柄にも適応できる言葉のお守りに。

足跡を消す性質から必然性が導かれ、トートロジーのいつでも正しいという確証がそれを補強する。

p141.進化論が言葉のお守りとして用いられる際、適者生存（自然淘汰）の原理には…適者生存のトートロジーを、言語の文法に導かれて「適者は生存する」という（トートロジカルに正しい）擬似法則とみなし、こんどはそれを、自然淘汰の足跡消去に導かれて「生存したのは適者だった」という（トートロジカルに正しい）命題で確証する

ダーウィン革命とはなんだったか

進化論は社会のなかでどのように普及していったか。

進化論は、発展的進化の普及に寄与した。

生物が決まった目的に向かって順序正しく変わっていくと考える進化学説。

非ダーウィン的。

キリンは高いところの草を食べるために首を伸ばしていった、という考え方。

スペンサーは現代人の思想へのインストールにおいて大きな影響を与えているが、その考えは、発展的進化論と市場経済の自由競争主義との結合というもの。

適者生存という言葉作ったの、スペンサー。

19世紀末から20世紀にかけてのスペンサー思想の広まりは凄まじかった。

進歩の観念を参加の観念と接合し、万物を見渡す視座。

このスペンサー主義が、「社会ダーウィニズム」と呼ばれ、普及。

学問の世界でも同じダーウィン革命が起こった。

ねじれた形、ダーウィンの主張とは真逆の、目的を持って変化すると言う考えで社会に波及。

ねじれの解消後は、別のねじれが生じることに。

学問の世界ではダーウィンの考えたアイデアでもって、革命がなされた。が、その後も、学問以外の部分では発展的進化論からのがれられていない。

進化を、進歩・改良・向上・発展と同一視する発展的進化論が常識として成り立っているからこそ、「進化したな」が向上を意味することになる。

進化論的世界像は、つまりは発展的進化論。

学問としての進化論と世界像としての進化論は、分業してうまくいっている。が、学問の世界は一枚岩ではなく、互いに激論を交わす。真下に流れる地下水道たる生物進化の理不尽さがそこにはある。

この学問での争いが は、世界像と学問という区別を不明瞭にしてしまう性質のもの。

第三章 ダーウィニズムはなぜそう呼ばれるか

素人の誤解から専門家の紛糾へ

私たちが誤解し対立しあうポイントにこそ、進化論の魅力が詰まっていると考える。

専門家同士の紛糾は、「適応主義」をめぐって。適応主義を掲げる主流はがコンセンサスを得ている。が、本当には終わっていない。

適応主義の論争は、進化の理不尽さをめぐる論争。

グールドの適応主義批判

適応主義

p183.すべての生物の特質は自然淘汰の結果として進化的な最適値へと調整されているはず

適応主義は、生物がいかに最適化されているかという問いを立て、いかにももっともらしい答えをそれに与えられるかを競う。実際にそうであるかどうかは問題外にして。

なぜなぜ物語と変わらない。

ある対象が現在的な有用性を持つことと、その対象がそのようになるに至った歴史的な経緯とは、別の事柄でありうる。が、適応主義はあらゆるものを適応とみなす先入観をもってして、区別を考えることができない、と批判。

ドーキンスの反論

アナバチのメスは、捕獲したエサを巣穴に運ぶが、その巣穴が他のアナバチも使っていると発覚したとき、巣穴への執着度合いはエサをどれだけ運び込んだか、つまり先行投資に比例しており、巣穴の価値つまり蓄えられてきたエサの数やどれだけ蓄えられるかは見逃してしまう。

コンコルドの誤謬的。

これを、実は適応的な行動ではないかという視点で見ることで、解答が与えられることに。

アナバチの感覚器官の制約が明らかになった。アナバチは、巣に蓄積できるエサの内容量を査定できない。この制約下において最適な行動を取っていることが明らかに。

グールドの主張

生物が最大限に適応しているはずだという先入観を持っているから、生物界を把握できない。自然淘汰による適応以外の面を見ることができていない。非淘汰的な要因にも目を向けなければ。

ドーキンスの反論まとめ

グールドの主張はすべて賛同しても良い。が、最適化に対する諸制約、非淘汰的な要因が存在するとしても、そうしたものが実際にどのようなものであるかを見積もるためにこそ適応主義的なアプローチが必要とされる。

制約があると指摘するだけでは、実際それがどんなものであるかどうかを知ることは困難。最適化しているはず、という適応主義的な物差しを用いることで、どんなことかを見積もることができる。

で、何に対する制約があるのか、ということを考えれば、最適化に対する制約にほかならない。

適応主義的なアプローチは、なぜなぜ物語が間違っているとき、そこで止まらずに実際の経験的データにより合致するなぜなぜ物語を考え出すことにこそその意義がある。

検証無しで済ませるために適応主義を用いるのではなく、実地に検証するためにこそ適応主義的仮説を用いる。

デネットの追い討ち

ドーキンスはグールドの主張は正しいとしても、適応主義は必要と説いたが、グールドが言うパングロス主義、つまり、なぜなぜ物語を盲信する形での適応主義は、おそらく否定する。つまり、グールドとドーキンスの適応主義は別物、と言える。それを肯定したのがデネット。

良い適応主義と悪い適応主義がある。が、そもそも適応主義的でない進化論などおよそあり得ない。

適応主義の意義は、進化の足取りを解読するための比類なく優れヒューリスティクスであること。

対象の生物の行動や性質が最適なように配剤されていることをとりあえず仮定する。その過程を糸口に進化現象についての考察を深めていくが、デネットはこれ以外に何があろうか？と説いた。

適応主義は、発見的方法。

進化論は、生命の樹と自然淘汰というハード・コアに、様々な要素が変更や追加をされた、防御帯の部分は色々と改定が行われているリサーチ・プログラム。

適応主義も、最適化というハード・コアを備えるリサーチ・プログラム。

適応主義がリサーチ・プログラムであれば、それは長期的な観点からのみによってしか、有効性・無効性を判断できない。それよりも優れた方法論が覇権を握らない限り、その有効性は揺るぎない。

p218.よい適応主義者になるのか、それともわるい適応主義者に堕ちるのか、もはやそれだけが問題なのである。

ダーウィニズムは本来的に適応主義的アプローチを必要とする。

生物が有するように見える合目的性こそ説明されるべきであると考えるから。

生物の持つ驚異的で複雑なデザインがどうしてつくられたのか、に説明を与えていたのが宗教。それを塗り替えたのが、ダーウィンの自然淘汰。

自然神学もダーウィニズムも、自然や生物に対する驚嘆と自然の解読に挑んでいると言う点で同じ。

一つ目のちがいは思考の方向性。

自然神学は偉大な創造主が自然をデザインした、とトップダウン的で、目的的。ダーウィンは、あくまで結果的に自然は今の形になったと考える。ボトムアップであり、非目的論的。

二つ目のちがいは、進化の方向性は決まっているという考えに対し、神の存在はおろか、進化の目的や方向すら前提としていないところ。

自然淘汰説により、説明をすることが可能に。

p235.自然淘汰のプロセスは、アルゴリズムの集積ー生存繁殖する個体を選び出したりふるいにかけたりする作業の集積ーによる地味な、しかし絶えざるR&D（研究開発）を通して、生き物たちをいまあるようなかたちにエンジニアリングしてきたということだ。

進化をもたらす自然は、あり合わせのもので、非効率で不自由でも、時間と手間をかけて驚異的な仕事をするエンジニア、と言える。

ダーウィニズムは自然のアルゴリズムをリバース・エンジニアリングにかけることによって解明しようと試みる。

動作を確認したり中身を分析したりして、製品の構造と機能を把握する方法。

研究対象である生物そのものの行動や身体をリバースエンジニアリングする。その際に必要なのが、適応主義的なアプローチ。

p240.ダーウィニズムは、アルゴリズムの基質中立性を通してデザインの複雑性を説明する、生物学の枠組みにとらわれない汎用的な理論となる可能性を秘めている。

ドーキンスが提唱した、「ミーム」のように。

基質中立性とは、素材を選ばない性質のこと。アルゴリズムは素材の物理構造とかには影響されず、論理的構造にその力がある。

論争の判定

最強の進化生物学者は、「最大限に大胆かつ細心な適応主義者」

ドーキンスに軍配が上がったと言える。が、なぜグールドは土俵違いの不利な戦いを最後まで続けたのか。そこに進化論が喚起する魅惑と混乱の源泉があるのかも。

終章 理不尽にたいする態度

グールドの地獄めぐり

グールドは、ネオダーウィニズムに依存しつつ批判するという無茶を続けた。その結果、反論され打ち負かされたが、グールドの進化に対する基本姿勢から同じ事象を見た時、その疑念はいくら打ち負かされようとむっくり起き上がる疑念として、いつまでも私たちに働きかけることをやめない。

グールドは、進化の理不尽さを、愚直なまでに直視し、魅惑の源泉であるとともに混乱の源泉に向き合ったがために地雷を踏んでしまった。

グールドの「理不尽さに対する態度」が。

歴史の独立宣言

グールドは、適応主義がいかに有効でも、それは不可避的に歴史を毀損するのではないか、歴史と切り離して現時点での最適性という孤立した問題にして歴史を無意味なものとしてしまうと考えた。

歴史なくして進化なし。欠かせない歴史を無意味なものにする適応主義には賛同できない。

適応主義は自然淘汰の側面で考える。が、進化は自然淘汰と生命の樹の両方が揃ってこそのもの。どちらかがどちらかを包摂してはならない。

グールドの主張は、現在的有用性と歴史的起源はあくまで別々の事柄として考えよう、というもの。

ただこれやと自然淘汰が生命の樹を包摂してしまって独立していないことになってしまう。

グールドの「パンダ理論」

パンダの親指はクマの進化の歴史があるから、手首の骨が発展する形で生まれた。そのように、研究対象の歴史性を、不調和や不一致から見出すこと。

p277.どんな物事も、「歴史におけるそれぞれの状況で手に入った奇妙な部品から構築された、一連の適応からなるまにあわせの仮建築」でしかありえない。

歴史的偶然性があって今のような形態になっている。ちょっと違えば全く違った形になっているかもしれない。そこには、現在的有用性と歴史的偶発性が独立して存在する。

p279.適応主義的なアプローチはこの区別をうまく考えることはできない...それは機能的分析の要である有用性の観点から離れることができないために、歴史の起源をつねに現在的有用性によって包摂してしまう。どれだけ注意深く用いたところで、本性上これら二つを区別することができない

歴史的機嫌が従属してしまうと、進化論はパンクロス主義に。

適応主義というメガネを通して見ることで、生物の進化の歴史が中傷されてしまう。

適応主義は生物の複雑なデザインを自然淘汰説によって説明するもので、どのような敬意で形作られたのかを説明する以上、歴史的な説明になる。が、それは、適応主義というレンズを通してみた歴史であり、それを本当の歴史とするのは、歴史に対する冒涜でしかない、というのがグールドの考え。

本来であればカテゴリーが違うはずなのに、それを別のカテゴリーの考え・見方で語ることが中傷に値する。

説明と理解

ダーウィニズムの革新性は、自然淘汰説と生命の樹仮説とを組み合わせたこと。自然淘汰説によって生命の樹が演繹できるとする適応主義は、ダーウィニズムを否定するに同じ。進化論の存在すら危ういものとなる。

説明と理解：歴史を理解するのに科学的説明だけで十分なのか？と言う疑問。

これは哲学的な問題で、科学活動の領域にはない。が、科学が哲学かははっきりとは区別できないことも。

グールドは適応主義を、哲学的な領域にて疑念を提示した。

適応主義は最前最適と仮定しているが、その仮定が正しいかの検証はしない。かつ、非淘汰的な諸力が自然の多様性を形成していると主張。

科学の方法論に対して存在論的な主張をぶつけている。カテゴリー錯誤。

方法論は方法論と割り切り、よりうまく説明できる方法を開拓するのが科学。

ではなぜ、グールドは方法論に存在論を対置したのか。

適応主義は方法論の枠内には収まるものではない、と考えていたから。

私たちの歴史の観念が、方法論と存在論とが明確に区別されないグレーゾーンを含むから。

科学革命により、一般法則が見出される時代がきて、そこで用いられるようになったのが、因果的説明。因果関係を基に自然界を見る説明方法。

自然科学だけでなく、歴史や言語、社会制度についても自然科学と同じ方法、つまり因果的説明がなされるように。

3点をベースに理論化された。実証主義という。

すべての学問を同一の方法のもとに行おう。

その同一の方法は、自然科学をベースに行おう。

因果関係を用いた説明に徹しよう。

哲学者や歴史家が反発。

実証主義的な方法では歴史を捉えることはできない。だから、「説明と理解」という二分法がいい、と。

自然科学は説明が肝心。

観察した事象から帰納的に法則を見出し、演繹的にここの現象に当てはめ、導き出す。

歴史は理解（了解）かが主題。

一般法則を見出すことも時には必要だが、いちばん重きを置くべきは、そのユニークさ。歴史は取り替えの効かない、唯一無二性があるから。

歴史学派は「理解」の方法論を確立することはできていない。現在においても実証主義敵見方が、歴史に対しても普通に向けられている。

歴史を理解する営みは、循環的な構造を持つ。歴史を理解しようとする者もまた歴史に巻き込まれているという制約条件がある。

この循環構造により、歴史家は選択を要する。どの事実に目をむけ、どの事実には歴史的事実として扱わないのか。

カエサルがルビコン川を渡ったことには目をむけられ、その他数多のルビコン川を渡った者は歴史的事実として語られることはないように。

選択という、前学問的・前科学的な観点が必然的に存在する。

選択してこそ歴史は初めて存在するという点で、歴史は存在論的。

この、方法以前の選択があることによって、歴史は学問的・科学的方法が語る以上のことを語ることができる。

そして、選択のちの歴史的事実による検証が、学問的に妥当なものへと磨き上げていく。

p309.自らの先入見やそれによる選択を素のままに留めておくのではなく、それを歴史的事実のほうから検討にかけて改良し、その上でまたあらためて事実をとらえるという運動を繰り返すことで、それを学問的に妥当なものへと磨き上げていくこと

こうした事情を鑑みず、歴史を語っているとするなら、それは暗愚。

グールドは、適応主義はその暗愚を犯している、という主張をしていた。

適応主義は方法論的に、生命の局地的な適応を説明するのには有効。が、進化論は自然淘汰と生命の樹というものの組み合わせで、生命の樹については歴史的な側面を持つ。適応主義によって歴史を語り出したとたん、前学問的・前科学的な存在ろんへのコミットメントを必要とする。が、そんなコミットメントはないかのように歴史を語るのは如何ともしがたく、暗愚学と呼ばざるを得ない。

適応主義の研究も実は一方には数学的モデルやシミュレーションを用いて解析する方法もあれば、自然淘汰による適応という観点から生き物の歩みの歴史を語るものもあったり。

スペクトラムでしかない。はっきり二つに分割できるのではなく、どの分野も因果の世界と意味の世界を含む。

グールドは、適応主義という科学的方法論というのを纏っているように主張しながら歴史までを語っていることに疑義を呈している。

グールドは、適応主義の歴史への毀損は、偶発生が損なわれることと考えている。

偶発生は、自然法則からの演繹では導きえない。

もし「生命史のテープ」を過去の部分をちょこっと改変してみたら、全然変わった現在になっているはず。

バタフライ効果がそこにはある。

p323.私たちが歴史と呼ぶのは、特定の時と場所における特定の個物がたどる決定論的カオスの遍歴にほかならない。

物理学は特殊性を無視し、歴史は抽象的な一般化を無視する。が、進化論はその両者を片方無視すれば死に体となってしまがために、両者が自己を主張するし尊重すべき対象でもある。

説明も理解も内包している。

両者を内包する度量の広さがありつつも、がゆえに両者がぶつかり合う戦場にもなっている。

グールドは、進化論の持つこの二面性を守りたかった。尊重していた。

そのやり方は正しいか、というのはまた別の話だが。

理不尽に対する態度

グールドは、「説明と理解」のジレンマに直面し、それより上位の「説明と理解」をこしらえることでどうにかしようとしてしまい、自滅した。

二つの極端な立場を同時に抱え込むことに。

適応主義では、歴史のもつ偶発生が蔑ろにされている、という立場をとっていたグールド。偶発生は、「ほかでもありえた」以上でも以下でもないのに、グールドは大げさにロマンティックに語り、因果的作用があるかの如くドラマティックに語ってしまった。

理解に対するウルトラ理解を生み出した。

ドーキンスは「偽りの詩」と言って激しく批判。

適応主義を自然淘汰のみを重視しすぎ、と批判するが、その立場を取るのであれば、適応主義を凌駕する何らかの理論を構築し、提示する必要がある。全体を包括するような、適応主義を必要としない、あるいは必要悪として用いるような、全体主義的な理論が。が、グールドは具体的な何かを提示することができなかった。

この全体主義的な理論こそ、説明に対するウルトラ説明。

「説明と理解」は、「方法と真理」に。

説明の方法は一つではなく、いろいろ存在し、それらが互いに緩く繋がっている。また、説明だけではとらえることのできないとされていた「理解」の方は、そこにただ存在する「真理」の解釈でしかないと発展していった。

位置づけへと変化した。

理解の特性はかけがえのなさ。説明の特性はかけがえのあるところ。かけがえのないものには、各々の解釈による真理が存在し、かけがえのあるものへの説明の方法は一つというわけではない。

グールドの守備一貫した失敗が、この発展への材料のほとんどを提供。一つ、進めることに貢献。

「方法と真理」においては、学問とは「方法」によって導かれる「説明」の体系。それは進化論においては、適応主義が説明の方法として機能し、それ以上の方法を持っていない。

グールドの反論は、これを明らかにした点でお役御免？否、むしろここから、進化論理解を理解するために真価を発揮する。

グールドの主張した偶発性の概念は、学問の外にあるもの。だからロマンティックに語るしかなかった。

どうすればよかったか。偶発性ではなく、「理不尽さ」と呼べばよかった。

科学はなんでも研究対象にし、そうするために諸制限を逃れて物事を把握する方法を開発し、客観性とは確実性というものを得ようとする。諸制限、つまり人間の都合などのぞいて考える。人間的要素に対して遠心的に働く知の営み。

進化論においても、この絶対的な要素は反映される。目的論的に見るのではなく、結果論的に見ることを提示することにより。

「目的論の自然化」

「理不尽さ」とは、「どうしてこうなった」偶発的事象に対して抱く、人間的感覚。

偶発性に対する人間的・形而上学的反応。

「ほかでもありえた」と思えるかどいうかが問われてる。

なぜ人間的・形而上学的かというと、説明が与えれてもその感覚が解消されることはないから。

地震で近しい人を亡くしたら、いつまでもたらればを悔やむ。解消できないもの。

p367.学問＝科学は、つねにうまくいくとは限らないにしても、答えられる問いを立ててそれに答える仕組み

形而上の責任の苦しみは、悲劇的なものも、非劇的なものも両方を包摂するところにある。

偶発生が人に影響を与えるのであれば、悲劇的になりうる。そうでなければ、理不尽なものとなり、非劇的。

グールドは偶発性に必要以上に重みをつけ、そこを「偽りの詩」と批判されたが、偶発性に対する人間的反応はむしろグールドの感覚。

科学的ではなく、人間的。

グールドはそれを科学の範疇で語ろうとしたがために批判されたが、そうせざるを得なかった。そうしないのは科学的野望を放棄することと等しいから。

私たちは、進化論を言葉のお守りとして利用する。学問的な限定を解除することで。

これは、元々は進化論は自然淘汰と生命の樹の二本柱であることがその根幹であるにもかかわらず、適応主義はことさら自然淘汰をベースにしていることにグールドは意義を唱え、ウルトラ文学主義とウルトラ科学主義を生み出した。

まるで、お守り的用法のために、学問的な限界を解除したように。

限定を解除してもなお進化論の理解を持つことができるのは、ドーキンスの知見によって埋め合わせるから。だから、利用できる。無敵の進化論者となれる。言葉のお守り的に扱うことができる。

進化論に「依存しつつの抵抗」にとどまることが、進化論における歴史の記述においては真っ当かもしれない。

自然淘汰は、自らの足跡を消す。他でもあり得たのを消し去ってしまう。から、そのまま適応主義によって歴史を記述して仕舞えば、どう言ったものがあり得たのかを全て無視してしまう。ならば、適応主義による自然淘汰の歴史を受け止めつつも、何とか他でもあり得た部分の再構成を図り、抵抗することが歴史記述としては真っ当かも、と。

歴史学における社会史の挑戦と同じものが、グールドの歴史記述にはあった。

歴史学においては、事件史や大人物史だったが、社会史では民衆の日常史などに目を向ける。

進化論においては、進化の発展史的なものが歴史学の事件史にあたり、大人物史にあたるのが恐竜や哺乳類の歴史。

グールドは、他の部分（例外的事象など）に目を向け、歴史を語ることが見事であった。

歴史を二分法により積極的な部分と消極的な部分に分けると、積極的な部分を消極的な部分が引き立て、そのあとは消えゆく。さらに消極的な部分を二分法により分けると、積極的な部分を消極的な部分は引き立てることができ、この積極的な部分は元の積極的な部分とは違ったものになる。

グールドは消極的な部分に目を向け、そこから積極的な部分を見出した。自然淘汰によって残ったという積極的な部分に対して、歴史と偶発性に対する眼差しによって自然淘汰ではないものとされてしまう部分から、積極的な部分を取り出そうと。

私たちの「人間」をどうするか

進化論は中間的性格を持つことをずっと述べてきたが、それは「遠心化作用」と「求心化作用」という水と油が出会う舞台。

p408.私たちの「人間」をどうするかという課題は、以上のように、「それは人間であることとなんの関係があるのか」と「それは進化／進化論となんの関係があるのか」とう二つの逆向きの問いを発することによって、人間にかんする遠心化／求心化作用が示す奇跡を往復する運動にほかならない｡それは、私たちは実際のところなにをしているのか、なにを求めているのかを認識する助けになるはずである。